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2018年02月18日

バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番他 庄司紗矢香 2010年録音


バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータと言えば、ヴァイオリニストにとっては聖書的な意味合いがあり、昔はある程度弾きこんでからでないと録音しなかったものです。チェロにおけるバッハの無伴奏チェロ組曲も然り。

今や大して売れてもいない若手バンドの武道館公演よろしく、若い奏者でも簡単に録音に踏み切ってしまうようになりました。レコード会社も録音に寛容になったというのもあるでしょう。昔はバッハ=売れないというレッテルがありましたが、今は逆にバッハならマタイか無伴奏曲しか売れない。
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で、この難曲にわが日本人の若手ヴァイオリニスト 庄司紗矢香が挑んだアルバム。まだアラサーにも関わらず、今や五嶋みどり・諏訪内よりもいいのではないかという抜群の安定したテクニックと自分の語り口を持っている。

なんという渋いプログラミング。この無伴奏パルティータは全曲録音の一曲では無く現代作曲家レーガーとバッハの無伴奏曲を纏めたアルバムの1曲です。

バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調
ヴァイオリン:庄司紗矢香
2010年 録音
録音 4.55点   演奏  4.55点


庄司さんはユニバーサルと契約をしていて安定して録音が発表されていますが、これはmirareというフランスのレーベルでの録音。


この収録曲ではユニバーサルは録音をOKしなかっただろうな、と思わせる渋いプログラム。レーガーとバッハの無伴奏曲を組み合わせた通でもちょっと引く選曲。バッハのソナタ・パルティータ第3番無しなのが挑戦的。
レーガー:前奏曲とフーガ ト短調
J.S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番
レーガー:前奏曲とフーガ ロ短調
J.S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番
レーガー:シャコンヌ ト短調
J.S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番
という2枚組。〆がパルティータの有名なシャコンヌで終わるという一夜のコンサートのよう。

果たして演奏ですが、往年の名ヴァイオリニスト ミッシャ・エルマンが愛用していたストラディヴァリウスを使って演奏したというのもなんだか納得するような音色で見事な演奏です。エルマンは小品が得意で甘い音色「エルマン・トーン」が有名でしたが、庄司さんはそんなライトな演奏ではありません。

低音の響きが耳に刺さらず、強く弓を当てても少し厚みがありながら柔らかな響きという点でエルマンの使ったヴァイオリンだなと感じるのです。

甘い音色のエルマンのヴァイオリン。晩年の映像なので少し技巧がオチてますが。





30歳前後でこんなにしっかりとこの曲を集中力を保ちながら、多彩な表情で聴かせてしまうのですから凄いです。ダイナミクスと間の使い方も巧い。ヒラリー・ハーンのような切先の鋭さはありませんが、どんな方にも薦められる見事な演奏。

通常、慣れていない方が無伴奏ヴァイオリンのCDを聴くと耳が疲れますが、この演奏と録音にはそれは感じません。コンサートホールの中央席で聴いているような丁度良い感じの響きがします。豊饒な響きが部屋を満たします。(それでも妻には耳に刺さったみたいですが・・・)

曲が手の内に入った演奏でブレが無い。素直でストレートに感じたままの演奏に好感が持てます。それでいてテクニックや解釈を押しつけがましく披歴しない。それをさりげなくこの曲で行うのは実は難しいのですが、それをさらりと庄司さんはやってのけます。こぶしを聴かせるところでも音が汚くならない。

それは録音によるものなのか、エルマン愛用のストラディヴァリウスの音によるものなのか不明ですが、真摯でありながら耳馴染みが良くこの曲をしっかり堪能させてくれます。


永遠のシェリングの名盤。

この庄司さんの演奏を聴いてから、クレーメルやシェリング、そしてシゲティ、はたまたエネスコの演奏に進むと私はいいと思います。当然いきなりシェリングでも良いですが、ちょっと耳に厳しいかと。私はシェリングから入り、何度もパルティータ中間部で涙したものですが・・・

クレーメルの新盤は慣れていない方にとっては耳に刺さるでしょう。元々歌わないヴァイオリニストで音が細く厳格ですから。

メジャーレーベルからでなくマイナーな曲も含まれ手に取りにくいCDかもしれませんが、優れたCDです。ただし、レーガーの曲と対峙する時はそれでもかなりの集中力が必要ですが。
ラベル:優秀録音
posted by 悩めるクラヲタ人 at 21:04| Comment(1) | 器楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月11日

スクリャービン ピアノソナタ全集+小曲集 ジョン・オグドン 1971年録音


スクリャービンの作品は中々難しい。難解だ。未だに理解できているのかよくわからない。ドビュッシーをより妖艶・神秘かつ無調的に、そこにバルトーク的な打楽器効果を加味するとスクリャービンのピアノ作品になるのかと。ピアノソナタ10曲が有名ですが、後期の作品は単一楽章の作品になり幻想曲といったほうが相応しい。
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ドビュッシーもそうでしたが、スクリャービンも共感覚(音を聴くと色が見える)の持ち主で作品にその特徴が色濃く反映しています。その作品をありきたりなアシュケナージでは無く、イギリスのピアニスト ジョン・オグドンのピアノで。

スクリャービン ピアノソナタ全集+小曲集
ピアノ:ジョン・オグドン

録音は当時のEMI録音としてはかなり低音のエッジが効いて◎。


ジョン・オグドン(1937-1989)の名前を知ってらっしゃる方も少ないと思います。私もモントゥーと共演したチャイコフスキーのピアノ協奏曲の独奏者だなという位の印象でした。モントゥー指揮の元、堅実なテクニックで何も足さず引かないピアニストだなと。他に録音したCDはそれほどないみたいで、スクリャービンのCDを探していたら、「えっこんな録音もしていたのか。意外と悪くないかも」と購入した次第。
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ホロヴィッツやソフロニツキーのような憑りつかれたような魔力、アシュケナージのような美音で色彩感を高めるといったことを施さず、ペダルをあまり多用せずに左手のエッジを効かせて見通しと隈取りを良くしたスクリャービンで、そのおかげで意外とスクリャービンを見えやすくしてくれている演奏でした。ダイナミックでスケール感もある。かといってリヒテルのように重くならない。へぇこんなピアニストだったんだと驚き。

ソフロニツキーで。

ジョン・オグドンは1962年チャイコフスキー国際コンクールでウラジーミル・アシュケナージと同時優勝。しかしその後の活動は「じゃない方」的に雲泥の差があります。それは恐らくオグドンが作曲家としての意識が強かったこと、精神的な障害が生じ万全の活動期間が10年くらいしかなかったことが影響しています。録音も録音魔のようなアシュケナージとは違い少なく、多くが廃盤状態。その中でチャイコフスキーとこのスクリャービンだけは海外での評価も高いのかカタログに残っています。

何度もオグドンの演奏を聴いてから、改めて数少ないホロヴィッツの演奏や「伝説の」ソフロニツキーの演奏を聴くとその憑りつかれ具合が今更ながらよくわかります。

音は悪い。旧ソビエトから出ることが許されなかったピアニスト ソフロニツキーの演奏は特に凄い。このCDの後やたらと「伝説」のピアニストが乱発されその言葉の価値が半減してしまいました。

久しぶりにながら聴き出来ない音楽を聴いた・・・・集中して聴いていないとさっぱり音・音楽が耳に入ってこない。集中力を尖らせて聴いていると不思議な高揚感と「あれっ?終わり」的な浮揚感が味わえます。ちょっと高音が耳に刺さりますがヘッドフォン向き。オグドンの演奏はコンポーザー・ピアニストとして冷静に楽譜と向き合い、その闊達なテクニックでスクリャービンの音符を空間に放り投げて輝かせています。ホロヴィッツの演奏はヘッドフォンだと耳が痛い。

しかしこのCDとの邂逅のおかげで、私のスクリャービン受容が進んだ気がします。こう思うと、1970年代以降はスクリャービンのピアノ演奏史は進んでいないのかとも気づかされる。その後の名盤って・・・そもそもスクリャービン自体がメジャーになっていませんが。

posted by 悩めるクラヲタ人 at 22:18| 器楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月17日

シューベルト 「さすらい人幻想曲」 エリー・ナイ 1964年録音 +キーシンの演奏 


作曲家自身がうまく弾けず、苛立ちのあまり「こんな曲は悪魔にでも弾かせてしまえ」と言ったという逸話が残る「さすらい人幻想曲」。第2楽章の変奏曲主題が自作の歌曲「さすらい人」から採られているので、このような名を冠しています。彼のピアノ・ソナタと違って沈静的なところは無く冒頭からベートーヴェンのソナタ?というような鳴りっぷりで、テクニック披歴に相応しくコンサート映えもするので好まれる曲です。

ただ演奏の雰囲気演奏するピアニストによってかなり印象が異なります。私が最初に耳にしたのは名盤と言われるリヒテルのEMI録音。凄い打鍵だなぁというのと一気呵成に弾き切る彼の全盛期の記録でもあります。録音は当時のEMIならではのオフ気味な録音にもかかわらず強音では少し割れ気味で・・・
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さてドイツの女流ピアニスト エリー・ナイ(1982-1968)。知る人ぞ知る戦前戦後のドイツを代表するピアニストでアルゲリッチ同様女流という言葉の範疇に相応しくないピアニストです。彼女の詳細については過去記事をご参照ください。激しい信念をお持ちの方です。
・エリー・ナイのベートーヴェン ピアノ・ソナタの演奏を聴いて・・・
個人的にはベートーヴェンも得意としていたし、音色的にもバックハウスと似ていると思います。そんな彼女の「さすらい人幻想曲」を。CDとしてが入手難でデジタルダウンロード音源ですが。

シューベルト 幻想曲ハ長調「さすらい人」
ピアノ;エリー・ナイ
1964年録音 彼女82歳!
録音 4.30点  演奏  4.65点


※モノラルの旧録音もあるのでご注意を

彼女の晩年の録音集(ほぼステレオ録音で音質もいい)。AMAZONでもたまにしか出ないし、ヤフオクでも高値です・・・20,000円位が相場みたい。

印象的な「ダーン・ダ・ダ、ダーン・ダ・ダ」というダクティルリズム(長‐短短)の明確でこの曲全体を支配する冒頭の強打がありますがこの冒頭だけでナイの音に惹きこまれることでしょう。ぺダリングが独特かも。その年齢からは想像できない強い打鍵と存在感・風格のある音。

この曲は切れ目なく演奏されますが、4つの部分からできています。第1部が勇ましい楽章、第2部が穏やかな緩徐楽章、続いて急速な3拍子の第3部、最後にまた華やかなアレグロで「ワルトシュタイン」にも作りが似ている第4楽章。実質はピアノソナタのようなものですが、その切り替わりのも見事なものです。シューベルトの中でも非常にドラマティックで全体の構成もしっかりと出来ている。

リヒテルの演奏。強打が・・・

ナイのピアノで演奏されるこの演奏は、この曲が作曲されたのが「未完成」を作曲した時期と同時期でもあり、晩年に差し掛かる頃ということもなんだか感じさせてくれます。力強さと第2部や第3部中間部のような晩年のピアノソナタ群の雰囲気もありますので、その辺の表情変化(しかもテクニック難)が求められる。まだ10代神童キーシン時代の演奏が非常に模範的で明晰。

カラヤンとのチャイコフスキー協奏曲、アバドとの合唱幻想曲も入ったいいとこどりのキーシンセット。
録音も良く一般的にはお薦め。安定したテクニックと第2部のような美しいひと時と激しく鳴る部分への切り替えも上手いし、曲に迸る感情の吐露を感じる。ただ・・・ちょっと無国籍的できれい達者過ぎるかなとも。

エリー・ナイのピアノはテクニックの衰えはそれほど気にならない。というかバックハウスやケンプのような技巧の衰えとはほぼ無縁、またハスキルやヘブラーのような弱音の細さもない。ドイツ人のピアニストですと言って聴かせたら「えっ女性のピアニストだったの?」と聴後驚かれること間違いなしです。

全体の構成力がしっかりしていて自国の音楽を自信を持って手練れの音楽として演奏している。強打が特徴のピアニストですが芯とコクがありうるさい音色にならない。音色を聴いていると使用楽器は恐らくスタンウェイではなく、ベーゼンドルファーではないかと思います。その影響もあるのでしょう。

「月光」の演奏風景の一部。
矍鑠とした演奏ですなんていうのも失礼な演奏。彼女の得意とするベートーヴェンでもそうですが、全体の構成を考えた解釈で、左手の分厚い響きが非常に生きており、憧れを感じる第2楽章の中間部から後半にかけては音のその低音と高音のコンストラストで聴かせる。強打一辺倒でなく揺らぎない解釈への自信、それに加え音色の変化の巧みさと豊かさ、そして人間味・遊び心のある音色・響き。当然、最後のコーダの仰ぎ見る迫力も圧倒的です。音が割れ気味になっても何のその。でも凡百のピアニストと違い和声がしっかりしているので、耳障りには決してならない魔法。


ポリーニです。
ナイの演奏を聴いていると、ポリーニや優れたキーシンでさえ芸格の差というか、手に馴染んだ感が全く違うし、地に足のついたドイツ音楽を聴いたという充足感が他盤との圧倒的な差。

第4楽章では少し乱れもありますが、これも一つの芸・表現かと思わせるようなテンポ変化と溜めのようで効果的。優れた録音で残されたことが本当にうれしい名演です。珍しく音源付けます。
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●第2部

●第4部

彼女のベートーヴェンが聴きたくなりますよね。

MP3アルバムですが、皇帝と熱情がセットのこれを聴いてから、ピアノソナタ 30番~31番に進むのがお薦めです。「熱情」の最後は熱が入りすぎてコーダで1パッセージ多く演奏していて面白いです。
タワーでも在庫僅かみたい。
Beethoven: Piano Concerto No.5, Piano Sonata No.23 エリー・ナイ



忘れれてはならないピアニストの一人。コロッセウム社のCDの安定供給を望みますが、一縷の望みしかない。悲しい時代です。

入手し易く、昔から評価の高いコンヴィチュニーとのブラームス。
でもまずは皇帝と熱情からベートーヴェンは聴くべし。
posted by 悩めるクラヲタ人 at 22:20| Comment(0) | 器楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする