タワーレコードからクナッパーツブッシュの名盤、ミュンヘン・フィルとのブルックナー 第8番のSACDが発売されました。最近はもう60年以上も前のマスターテープに遡っても・・・とリマスタリングCDには食指が伸びない。どうしようか迷った挙句購入した次第。
このマスターテープ、名盤にも関わらずさまよえるレーベル ウェストミンスターのおかげでかなり長い間行方知れず、1990年代になってビクターの倉庫にて発見されました。そのため長い間使用されていなかったためか、保存状態は悪くないようです。発見されてからもビクター、ユニバーサルの2回しかリマスタリングは行われておらず、今回で3回目でしょうか?さてその仕上がりは。
「クナッパーツブッシュは聴衆を、その解釈で魔術師のように虜にしたが、自分にそれが終わってしまえば、有無を言わさず刎ねつけるような身振りや口ごもった言葉で、魔法を破ってしまった。ある時ベートーヴェン「五番」の演奏が終わったところで、水を打ったような感動に沈む会場に、数秒後、ぶっきらぼうな唸り声が聞こえた、「おしまい!」」
ブルックナー 交響曲第8番
指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1963年 バヴァリア・スタジオでのスタジオ録音
タワーレコードの当該ページは
https://tower.jp/item/6522987
昔から名盤の誉れ高い演奏ですが、さまよえるレーベル ウエストミンスターが録音したため、カタログから消えることがしばしば。タワーレコードが、マニアの中で一番評価の高い日本ビクター盤を24bitリマスターして廉価で復活。その後は常時手に入りやすい状態が続いています。ユニバーサルからもでていましたが、少し化粧し過ぎで派手派手しい音。ビクター盤の方がデッドなマスターの味が出ていて好ましく感じます。
そして今回の2024年リマスタリング。この名盤がこのような音で聴ける日が来るとは。最初にLPで耳にした時の残響皆無でゴツゴツした音+左右逆と比べるまでもない。基本的にビクターリマスタリングの音に近い。今回はさらに音の情報量が増し、倍音成分もより感じられるようになった結果、楽器間の距離が感じられ、また少ないながらも残響感も増したことでよりこの演奏を芳醇に聴けるようになったと思います。もうこれ以上のリマスタリングは不要、クナの言葉ではないですが「これで気に入らなかったら糞くらえ!だ」といった感じ。
昔のゴツゴツした感じはやわらぎました。それを残念と感じるか、LP時代の限界だったと考えるのか。私は当時のミュンヘンpoの音と思しき管楽器の田舎感感じる音色をより感じることができるし、マスターテープの不備もそのままにしている今回のリマスターが一番忠実丁寧な仕事だと感じます。CD層でも十分その音は愉しむことができます。価格は少し高いですが、その金額に相応しいいい仕事をされている。
この音であれば昔は遅すぎると言われていたクナッパーツブッシュのテンポも、朝比奈・チェリビダッケと比べてもそんなに遅く思わないのではないでしょうか。彼らと違いオーケストラを自然に歌わせているため、逆に粘っこい印象を与えません。凄いfffもありますが力づく感はないですし、呼吸が深い演奏です。第3楽章だけは少し流れが悪くもたつく感じがありますが、弛緩はしていない。
閑話休題。最近のリッカルド・ムーティ。ブルックナーも演奏するようになっていますが、相当にテンポが遅くなっています。youtubeで聴いたウィーンpoとの交響曲第8番、またベートーヴェンの第9番もかなり遅い。シューマンの交響曲第4番はクナッパーツブッシュの表現やテンポにかなり近い。
ただ流れが悪い。クナッパーツブッシュが如何に遅いだけでなく流れを意識していたかがわかるというものです。
この時期のミュンヘン・フィルは、まだドイツのローカル・オーケストラという響き。チェリビダッケが磨き上げたオーケストラと同じオーケストラとは思えません。リマスターのおかげで、アンサンブルの乱れなどあらも見えやすくなりました。世界的にオーケストラの技術力は上がりましたが、こういった楽団独自の音色が無くなってしまったのは淋しい限りです。
懐かしいLPのジャケット!このCD(正しくはLP)は、私がブルックナーの第8番を理解すると同時にブルックナーを理解する大きなきっかけとなったものです。この演奏を知った時にはすでに廃盤状態。中学時代に愛知県内の中古LP屋を探し回って、やっと出会えた時の喜びは一入でした。
ゴツゴツとした響きで、細部に拘らず淡々と演奏されていますが、曲の全体を鷲掴みしたようなスケールの大きな演奏です。ヴァントのような凝縮された厳しい厳粛な演奏を聴く前に聴いておくべき古典です。ブルックナー理解にヴァントの演奏は少し敷居が高いと思います。
長身痩躯の身体全体での凄い指揮ぶり。テンポなんて刻んでないですね。
確かにこの演奏は、現代のブルックナーに耳慣れた耳にはびっくりすることも多い演奏。ブルックナーの演奏になると楽譜の使用版の問題が出てきますが、この演奏はノヴァーク版でもハース版でもなく、改訂版と言われる大きく手を入れられた版を使用しています。テンポや強弱指定にも違いが多いですが、特に目立つのは第1楽章最後のトランペットのファンファーレがffでなくmpで演奏されること、第4楽章に一部カットがあること、終曲コーダへの入りが(トッティでタターータータタタターと演奏される部分)ffでなくmfでスタートし徐々に音量を上げていくところでしょうか。
交響曲第4番や9番は編曲?というほど改悪されていますが、第8番はそこまでなので鑑賞に支障は無い。どちらかというと、この録音での問題は第4楽章の一部分で明らかにテープの継ぎ接ぎミスがマスターテープにあること位。かなりはっきりわかります。
ちなみに終曲最後の3つの和音(タタター)を、クナッパーツブッシュはダン・ダン・ダンと切って演奏していますが、これは改訂版の指定ではなく彼独特の解釈です。下の1962年とのウィーン・フィルとのライブ録音までは雪崩込むようにタタタッ!と演奏しています。
このスタジオ録音の直近に同じ顔触れのライブ録音があります。このライブでは、スタジオ録音と同じように最後の音をしっかり切ってます。どのように指揮棒を振ったのだろう?普通は最初のタで一回振り下ろし、棒があがって次のタ、再度振り下ろしてターなので2回ですから。どう考えても3回に振り分けていないと揃わないだろうと思われる切り方。
で、ライブ盤の演奏内容ですが、録音さえ良ければ、第3楽章含めて全体的な流れもよくスタジオ録音を越えたであろう演奏記録です。
有名な新聞批評がありますので抜粋。
批評 ヴァルター・パノフスキー
「八番の解釈が、今回ほどこれまでの演奏と大きく異なったと思われたことはなかった。彼はこの作品を全く新たに洞察し、心に受けとめたのだろう。巨大な石造りのこの作品の荘厳な不協和音の尖角を、これほど鋭く切り出したことはなかった。これほど厳しくリズムを前進させたことはなかった」(1963年1月23、24日のコンサート)
最後の音が鳴り終わり、少し間がありパラパラと拍手が。しかし、一旦拍手は弱まる。呆気に取られていた他の観衆も夢が覚めたかのように拍手をはじめ、ようやく満場喝采となる部分まで録音がしっかり残っています。これが本当に感動的。
昔から海賊盤があり、KINGレコードから正規に発売もされましたが、冴えない音質で有名でした。その後、ドリームライフ社が放送局マスターを発掘しモノラルながら当時のライブとしては見事な音質で復刻。残念ながらドリームライフのCDは廃盤でAMAZON・ヤフオクでも高値状態ですが、廉価海賊レーベル メモリーズが同等の音質でおまけ付きで廉価再発してくれています。
昔はクナッパーツブッシュの録音を入手するのに本当に苦労しましたが、今はいい時代です。タワーレコードさん、メモリーズ、そしてveniasレーベルには足を向けて寝れない。
ライブではミュンヘンpoが金管楽器のビブラート等より一層ローカルな響きを醸し出している。
技術が劣っていても、アンサンブルが揃っていなくても、名演奏を成し得ることができる。あらためて芸術とは人の手によって為されるものであることも、再確認できる演奏です。ミスがあるのも人間が行うことだから当たり前。今の時代、奏者も聴き手もアンサンブルに目が行きすぎではないの?もっと大事なこと忘れてない?と問いかけてくるような演奏・記録です。
ラベル:クナッパーツブッシュ ヒストリカル


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