昔にNHK-BSで放送されたオペラ公演の映像で記憶から離れないものがあります。指揮者もオペラも地味でそれほど話題にもならなかったと思いますが、チレアの歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」をイタリア・オペラ界の名名匠ジャナンドレア・ガヴァッツェーニが指揮した公演です。
恐らく新演出でもないレパートリー公演の映像だったと思いますが、何が印象に残ったかというと1幕が始まる前に指揮者が登場し拍手が慣例的に行われる部分ですでに「ブラヴォー」の声と敬愛に満ちた拍手が指揮者に送られていたからです。
見た目は一見不愛想で強面ですが、カーテンコールで見せる笑顔を見ると「カルロス・クライバーが上手に年齢を重ねていたらこんな顔になっていたのかな・・」と思うような素敵に年齢を重ねた笑顔も見せます。
ウィキペディアで調べてもろくな情報はなく、ミラノ・スカラ座で音楽監督を一時期務めたことと、長らく同歌劇場の首席指揮者だったことだけ。残されたCDも少ない。ただこの公演の映像をやっと入手し改めて聴くと、トゥリオ・セラフィンに似てオペラに精通して、如何にもたたき上げのオペラ指揮者に専念した指揮者だったことが再認識できました。
チレア 歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」全4幕
ミレッラ・フレーニ、ペテル・ドヴォルスキー
イーヴォ・ヴィンコ、フィオレンツァ・コッソット他
指揮:ジャナンドレア・ガヴァッツェーニ
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
演出:ランベルト・プッジェッリ
録音 4.20点 演奏 4.60点 映像 4.10点
AMAZON ⇒ ガヴァッツェーニ「アドリアーナ・ルクヴルール」
オペラの筋は実際に存在したフランスの伝説的な女優アドリアーナと、恋敵ブイヨン公妃との恋愛悲劇です。表題役には歌唱力だけでなくセリフ回しも上手でないと上手く演じきれない難しい作品でもあります。その表題役を最盛期を少し過ぎた円熟期に入ったフレーニが、女優さながらに見事に演じています。当時は3大テノールに次ぐと言われていたペーター・ドヴォルスキー、恋適役のブイヨン公妃をフィオレンツァ・コッソットが見事に支える名公演です。演出も安心して歌劇を味わえるスカラ座らしい豪華で品のある演出。
そのすべてを束ねる指揮者ガヴァッツェーニの巧みな音楽運びがやはり素晴らしい。CDもあまりなくオペラ好きの人でもあまり名前を存じていない方も多いと思います。私の家の棚には1950年代録音のジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」(布陣はマリオ・デル・モナコ、ティバルディ、バスティアニーニ!)がLPがあります。
それが彼の一番有名な録音ではないでしょうか?こちらも今は廃盤。
強面指揮者は観客の声に軽くお辞儀をして演奏を始めます。右手一本でスッと指揮を始めますが、見た目と年齢とは違い活き活きとして含蓄のある快い響きが最初の和音から広がります。その後も場面場面に合わせ音色・テンポ・音の表情を巧みに変化させ本当に素晴らしい。歌手への指示も的確で見事にまとまっています。フレーニも名唱もこの名伴奏。
フレーニのアリア後の拍手も入っていますが、流れを壊さないところですっと演奏を始めていくことができるのも経験の成せる技でしょう。スカラ座のオケらしいここぞという迫力と開放的なトランペットもいい。そして悲劇らしい幕切れのハープのアルペジオの素敵で美しいこと・・・呼吸感というやつです。
貴重な指揮姿。
映像作品としても画質が少し良くない・アスペクト比4:3ということを除いて、当日の公演を堪能できるいいDVDです。入手難なのが本当に残念。昔から探していて、AMAZONで見ると結構高くて「んー」と悩んでいたらたまたま1,780円で出ていたので購入。昔の記憶を良い方向に裏切るいい出来のDVDで久しぶりにオペラ鑑賞に浸れました。幕間とフィナーレ後のカーテンコール、幕前の雰囲気も結構長い尺使っていて歌劇場の雰囲気が伝わってきます。
幕が進むにつれて各幕前の指揮者へ送られる「ブラヴォー」と拍手が高まっていくのも伝わってきます。まるで全盛期のC・クライバーの公演みたいです。一方、まだ厳しかったスカラ座の天井桟敷の観客からは、カーテンコールでフレーニに「ブー」を出す声も少数ながらいるのがわかります。コッソットの方がこの日の評価は良かったみたいです。
確かにちょっと自分の演技と歌唱に満足だったのか如何にも昔のプリマ然とした雰囲気はちょっと気になります。あと歌唱は見事ですが、恋愛劇にしては残念ながら見た目が少しご年齢を重ね過ぎているかなというのもあるのかも・・・昔宇野功芳がクライバーのスカラ座来日公演の「ボエーム」で見た目以外は最高と書いていたのを思い出す(笑)
マルットゥッチの「ノットゥルノ」の演奏。ムーティも好きな曲として良く演奏しますね。
ガヴァッツェーニが無くなった際には、ムーティがベートーヴェンの「英雄」第2楽章をスカラ座で追悼演奏したとのこと。トスカニーニが無くなった時以来の出来事だそうです。
こちらも欲しいがさらに曲が地味だし、高くて流石に買えない。残念ながらメジャーなオペラ録音や管弦楽曲録音が少なくて残念。録音などに精を出すよりは劇場でという昔気質な人だったのかもしれませんね。オペラ好きな人にも、そうでない人にも是非見ていただきたい名DVDだと思います。来日オペラに高いお金を出すならこういった昔の名演のほうがオペラの楽しみや本来のオペラ座観客としての目の厳しさを養えるかと思います。


