2026年06月28日

チレアの歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」 フレーニ&ガヴァッツェーニ/ミラノ・スカラ座 1989年ライブ


昔にNHK-BSで放送されたオペラ公演の映像で記憶から離れないものがあります。指揮者もオペラも地味でそれほど話題にもならなかったと思いますが、チレアの歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」をイタリア・オペラ界の名名匠ジャナンドレア・ガヴァッツェーニが指揮した公演です。

恐らく新演出でもないレパートリー公演の映像だったと思いますが、何が印象に残ったかというと1幕が始まる前に指揮者が登場し拍手が慣例的に行われる部分ですでに「ブラヴォー」の声と敬愛に満ちた拍手が指揮者に送られていたからです。
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見た目は一見不愛想で強面ですが、カーテンコールで見せる笑顔を見ると「カルロス・クライバーが上手に年齢を重ねていたらこんな顔になっていたのかな・・」と思うような素敵に年齢を重ねた笑顔も見せます。

ウィキペディアで調べてもろくな情報はなく、ミラノ・スカラ座で音楽監督を一時期務めたことと、長らく同歌劇場の首席指揮者だったことだけ。残されたCDも少ない。ただこの公演の映像をやっと入手し改めて聴くと、トゥリオ・セラフィンに似てオペラに精通して、如何にもたたき上げのオペラ指揮者に専念した指揮者だったことが再認識できました。

チレア 歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」全4幕
ミレッラ・フレーニ、ペテル・ドヴォルスキー
イーヴォ・ヴィンコ、フィオレンツァ・コッソット他
指揮:ジャナンドレア・ガヴァッツェーニ
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
演出:ランベルト・プッジェッリ
録音 4.20点  演奏 4.60点 映像 4.10点

AMAZON ⇒ ガヴァッツェーニ「アドリアーナ・ルクヴルール」
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オペラの筋は実際に存在したフランスの伝説的な女優アドリアーナと、恋敵ブイヨン公妃との恋愛悲劇です。表題役には歌唱力だけでなくセリフ回しも上手でないと上手く演じきれない難しい作品でもあります。その表題役を最盛期を少し過ぎた円熟期に入ったフレーニが、女優さながらに見事に演じています。当時は3大テノールに次ぐと言われていたペーター・ドヴォルスキー、恋適役のブイヨン公妃をフィオレンツァ・コッソットが見事に支える名公演です。演出も安心して歌劇を味わえるスカラ座らしい豪華で品のある演出。

そのすべてを束ねる指揮者ガヴァッツェーニの巧みな音楽運びがやはり素晴らしい。CDもあまりなくオペラ好きの人でもあまり名前を存じていない方も多いと思います。私の家の棚には1950年代録音のジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」(布陣はマリオ・デル・モナコ、ティバルディ、バスティアニーニ!)がLPがあります。
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それが彼の一番有名な録音ではないでしょうか?こちらも今は廃盤。


強面指揮者は観客の声に軽くお辞儀をして演奏を始めます。右手一本でスッと指揮を始めますが、見た目と年齢とは違い活き活きとして含蓄のある快い響きが最初の和音から広がります。その後も場面場面に合わせ音色・テンポ・音の表情を巧みに変化させ本当に素晴らしい。歌手への指示も的確で見事にまとまっています。フレーニも名唱もこの名伴奏。

フレーニのアリア後の拍手も入っていますが、流れを壊さないところですっと演奏を始めていくことができるのも経験の成せる技でしょう。スカラ座のオケらしいここぞという迫力と開放的なトランペットもいい。そして悲劇らしい幕切れのハープのアルペジオの素敵で美しいこと・・・呼吸感というやつです。

貴重な指揮姿。



映像作品としても画質が少し良くない・アスペクト比4:3ということを除いて、当日の公演を堪能できるいいDVDです。入手難なのが本当に残念。昔から探していて、AMAZONで見ると結構高くて「んー」と悩んでいたらたまたま1,780円で出ていたので購入。昔の記憶を良い方向に裏切るいい出来のDVDで久しぶりにオペラ鑑賞に浸れました。幕間とフィナーレ後のカーテンコール、幕前の雰囲気も結構長い尺使っていて歌劇場の雰囲気が伝わってきます。

幕が進むにつれて各幕前の指揮者へ送られる「ブラヴォー」と拍手が高まっていくのも伝わってきます。まるで全盛期のC・クライバーの公演みたいです。一方、まだ厳しかったスカラ座の天井桟敷の観客からは、カーテンコールでフレーニに「ブー」を出す声も少数ながらいるのがわかります。コッソットの方がこの日の評価は良かったみたいです。
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確かにちょっと自分の演技と歌唱に満足だったのか如何にも昔のプリマ然とした雰囲気はちょっと気になります。あと歌唱は見事ですが、恋愛劇にしては残念ながら見た目が少しご年齢を重ね過ぎているかなというのもあるのかも・・・昔宇野功芳がクライバーのスカラ座来日公演の「ボエーム」で見た目以外は最高と書いていたのを思い出す(笑)


マルットゥッチの「ノットゥルノ」の演奏。ムーティも好きな曲として良く演奏しますね。
ガヴァッツェーニが無くなった際には、ムーティがベートーヴェンの「英雄」第2楽章をスカラ座で追悼演奏したとのこと。トスカニーニが無くなった時以来の出来事だそうです。


こちらも欲しいがさらに曲が地味だし、高くて流石に買えない。残念ながらメジャーなオペラ録音や管弦楽曲録音が少なくて残念。録音などに精を出すよりは劇場でという昔気質な人だったのかもしれませんね。オペラ好きな人にも、そうでない人にも是非見ていただきたい名DVDだと思います。来日オペラに高いお金を出すならこういった昔の名演のほうがオペラの楽しみや本来のオペラ座観客としての目の厳しさを養えるかと思います。

posted by 悩めるクラヲタ人 at 22:38| オペラ・声楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年05月23日

プッチーニ 歌劇「ラ・ボエーム」 ティバルディ&ベルゴンツィ/セラフィン盤 1959年録音


プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」が超名曲であることは周知の通り。オペラの入門曲としても打って付けの曲。同じプッチーニの「蝶々夫人」の何十倍か優れた名曲だと思います。当然初演を務めたトスカニーニ盤をはじめ数多く録音されていますが、今カタログに残っていて入手し易い「ラ・ボエーム」はやはりカラヤン盤でしょうか?あとはマリア・カラスのCDか、レヴァイン/メトロポリタンのDVD位。こんな名曲なのに信じられない・・・
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ステレオ黎明期の名盤であるセラフィン盤が長らく入手難の状態であることも。正直私は「ラ・ボエーム」を聴くのはこのセラフィン盤かC・クライバーの海賊盤(ミラノ・スカラ座との来日公演ステレオライブ)位。後者も当然入手難。カラヤン盤も聴いた記憶はありますが、このセラフィン盤の素晴らしさには敵わずすぐに棚から消えました。なんといってもこの歌手の贅沢さ・・・みんな主役級ですからね。

プッチーニ 歌劇「ラ・ボエーム」全曲
レナータ・テバルディ(ミミ)
カルロ・ベルゴンツィ(ロドルフォ)
ジャンナ・ダンジェロ(ムゼッタ)
エットーレ・バスティアニーニ(マルチェッロ)
レナート・チェザーリ(ショナール)
チェーザレ・シエピ(コッリーネ)
フェルナンド・コレナ(ブノワ/アルチンドロ)
ピエロ・デ・パルマ(パルピニョール)
指揮:トゥリオ・セラフィン
ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団

録音  4.45点  演奏  4.80点
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「serafin boheme」で検索しないと出会えない。しかし輸入盤で廉価で手に入ることは大変嬉しい。海外の方がいい見識眼がある。しかもリマスタリングがいいのか音もリフレッシュされている。

曲についてはもう語る必要もない位、最初の「テレッテッテ!」というトゥッティから心躍らされ、その後も愉しいメロディと愛らしい旋律に溢れている。出会いと別れ、再開の喜びも束の間で永遠の別れとなる幕切れ。全4幕が交響曲のような構成(第2幕はスケルツォ、第3幕はさしずめアダージョ)でしっかりとしており、魅力的なアリア満載。

それをイタリア・オペラの名匠 セラフィンが素材の良さをそのままに料理している。そんなに名オーケストラではないローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団からなんと巧いオーケストラだろうと溜息が出る位の音を引き出す魔術。そして歌を一時も邪魔することなく、歌手までも見事に力でねじ伏せずに掌握する能力。これだけの名歌手たちの個性を十分生かしながらまとめ上げる手腕は今のムーティでも無理でしょう。


ゼッフィレルリの名演出の一つ。



C・クライバーのボエームがビールで例えるならスーパー・ドライのような切れ味で一口で「巧い!!」とキレで酔い(毒?)が回るのに対し、セラフィンの演奏はさしずめモルツ。麦とホップの旨みをじっくりと味あわせてくれる。薫りもコクもじっくりと堪能させてくれる。熟成された味わい。飲み終わった後のじんわりとした寂しさが漂う・・・

歌手についても文句のつけようがない隙の無さ。メフィストーフェレで悪魔のような太い声を聴かせたシエピの控えた歌、少々立派ですがミミの歌を堪能させてくれるティバルディ、永遠に歳をとらないかのような健康的でありながら美声と演技上手なベルゴンツィ(終幕の裏声混じりの叫びは本当に素晴らしい)、その他脇を支えると言っては失礼なダンジェロとバスティアニーニの痴話喧嘩。

この盤の聴きどころはと聴かれても「全部!」としか言いようがない。指揮者含めて誰も突出せず、最後に感じるのは「プッチーニのボエームってなんていい曲だろう」と感じさせてくれる高次元の記録です。


プッチーニの筆の冴えが光る第3幕終盤の喧嘩と愛の歌の交錯。

録音も古さを感じさせないどころか、最新録音よりも活き活きとした録音でDECCAの録音の中でも傑出したものだと思います。昔国内盤でCDを持っていましたが古臭い音だなとオリジナル盤LP(例によって米LONDON盤ですが)を入手し楽しんでいましたが、この輸入盤は特にリマスターに関しては何も謳ってありませんが、よいリマスターでLPを引っ張り出さずに済むようになりました。


セラフィン伴奏のカラスのアリア。やはりカラスは少し苦手・・・

この名曲の名録音は2度と表れないでしょう。期待されたクライバーは正規録音を残さなかったですし、残されたライブ録音も歌手に凸凹があります。三大テノール(ドミンゴ・カレーラス・パヴァロッティ)の世紀の共演よりも凄い!!と思う声の世紀の声の饗宴です。レコード芸術、そして舞台芸術の粋を本当に教えてくれる名録音・名演奏です。


トスカニーニの演奏も歌心と初演者の矜持に満ちていますが、歌手が物足りないのと少しセカセカし過ぎて。

こんな素晴らしい演奏が板起こしもされず、歴史に埋もれるとは何とも悲しい。最後のミミの息絶える悲しみよりも・・・フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュ、カラヤンも良いですが、過去の名オペラ録音もしっかりとリマスタリングして配信だけでもしてほしいものです。それがレコード芸術という文化遺産なのですから。
posted by 悩めるクラヲタ人 at 18:25| Comment(0) | オペラ・声楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年05月17日

ヴェルディ 「レクイエム」 ムーティ/シカゴso 2009年録音と1995年来日公演ライブ映像


1995年のムーティのヴェルディのレクイエムの映像。

レクイエムは苦手ですが、ヴェルディのレクイエムだけは無性に聴きたくなる時があります。これだけクラシック音楽歴が長いのに、ベートーヴェンのミサ・ソレムニスやブラームスのドイツ・レクイエム、そしてモーツァルトのレクイエムですらまともに通して聴いたのが何回あるか・・・フォーレとヴェルディは、年に2,3度は耳にします。

ヴェルディのレクイエムの名盤と言われるものにアバドとミラノ・スカラ座管弦楽団の録音があります。今でもなのか?レコード芸術ではベルリン・フィルとの新盤に鞍替えしたみたいな気配もあります。

図書館で初めて出会って聴いたのがアバド盤、正直さっぱり良く分かりませんでした。それはまだ私が高校生という若造だったからでもあります。今聴くと颯爽していて彼の再録よりはいいとは思います。当時としてはそれまでの演奏がどちらかというと暗さを強調したものが多かったから、その颯爽さと合唱の良さも加えて新鮮と捉えられたのでしょう。
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さて本題。私にとってヴェルディのレクイエムと言えばムーティです。この曲の凄さを教えてくれたのもムーティでした。その後、トスカニーニやカラヤン・ジュリーニ、それこそ音は悪いが歌手は絶品のセラフィン盤を聴いても心は揺れ動かない不動のムーティ。ムーティはフィルハーモニア管弦楽団、ミラノ・スカラ座、そして現在音楽監督を務めるシカゴ交響楽団でと3度の録音をしています。

ヴェルディ 「レクイエム」
フリットリ(S)、ボロディナ (Ms)
ゼッフィリ (T)、アブドラザーコフ (B)
シカゴ交響合唱団
指揮:リッカルド・ムーティ
シカゴ交響楽団
2009年録音 SACDハイブリッド盤


ハイレゾ配信もあります。


正直に申し上げると素晴らしい演奏ではあり、ヴェルディのレクイエムの中で販売されているものでは録音も含め一番お薦めしますが、個人的には期待を少し外した感を持った演奏でした。スケールも大きく、ムーティの楽譜の読みも深く、シカゴ交響楽団の技量も申し分ない。歌手も揃っていて、合唱も最後までだれない。その統率力には脱帽で音の鳴らし方に無理が無く、余力を持ってこの大曲の静と動を描き出しています。

ただムーティも角が少しとれてしまったなぁと。ミラノ・スカラ座との録音から約20年の間が空いているのでそれはそうでしょうが、あのキレがある頃の演奏の方が迫力があった。ミラノ・スカラ座管弦楽団とのCDは録音がEMIなのでフォーカスが甘い、パヴァロッティの声がこの曲には合わないなど指揮とオーケストラは概ねいいのに不満がちょっと多かったのでそれは払拭されました。





ではどのムーティの演奏でこのヴェルディのレクイエムに感銘を受け開眼したかと言えば、NHKのBSで放送された1995年にミラノ・スカラ座と来日した際の特別演奏会の映像。会場はNHKホール。今回のシカゴ響とEMI録音の中間にあたる頃。ミラノ・スカラ座の音楽監督在任時であり、完全に掌握中の時でもあります。

私はムーティの一番勢いがあったのは1990年代から2005年くらい前かと思っています。自他ともに厳しいリハーサルに基づく勢いとキレが特徴でしたが、そこに抑制も効くようになって表現に幅が出て緊張感は残るという丁度バランスが取れていた。ウィーンpoとの付き合いも一番いい頃でした。

で、この放送のDVDを今でも大事にしており何度も見て聴いてしまいます。その有無を言わせぬ圧倒的なダイナミクスと静と動の描き分け、そして緊張感を最後まで保ち続けるその指揮姿に感銘を受けます。観客も珍しく静か。終曲後の拍手もフライングもなくブラヴォーが飛ばない。でも話によると15分もの間拍手が続いたとのことです。この映像、不思議なことにyoutubeで探しても全く出てこない。フィラデルフィア管弦楽団との来日公演とかはyoutubeで良く引っかかるのに?

「怒りの日」。ティンパニストが、元サンフランシスコsoで叩いていたデイビット・ハーバード。なので、おそらく最近の演奏。

NHKの録音がまたこの日は調子が良く、「怒りの日」の大太鼓からソプラノの高音までしっかりと明瞭に捉えられている。少しミラノ・スカラ座管弦楽団の調子が良すぎて金管が耳につきますが、合唱も明瞭でヴェルディのレクイエムの録音としても優れている。しかし何といってもムーティの指揮が素晴らしい。時には合唱が勢いでクレッシェンドしていきそうな部分も手で抑えてと指示しているのもわかる。最後の「リベラ・メ」のクライマックスの圧倒的な迫力はまさにかくあるべしと。そして静かに荘厳にリ・ベ・ラ・メー・・・・・

この映像、さらにいい音質でブルーレイ化かCD化されないかなぁと願う後味の悪い今日のブログでした。同時期のウィーンpoの創立記念演奏会の映像も然り。しかしムーティは2000年代になってから録音が少なく残念です。評価は変わらず高いのに、不思議です。レコード業界の不況とフレッシュ感が薄くなったからでしょうか。若い頃に主要楽曲を録音しすぎたのもあるでしょう。
posted by 悩めるクラヲタ人 at 22:41| Comment(0) | オペラ・声楽曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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