室内楽曲でしかも渋い曲。弦楽五重奏というだけでも珍しいですが、通常弦楽五重奏はヴァイオリンが2、ヴィオラ2・チェロ1ですが、この曲ではチェロの代わりにヴィオラが1でチェロが2。当然その分響きに厚みが出ます。響きだけでなく、曲もヴィオラ・チェロが活躍するように書かれています。シューベルト特有の耳馴染みのいい旋律がちりばめられた名曲です。
しかしこの曲はシューベルトの最晩年(と言っても30代前半)の作品。また演奏家の一人であり20世紀を代表する音楽家の一人パブロ・カザルスの最晩年の録音の一つ。その二つかかけ合わさったためか、何とも不思議なインパクトを与えてくれる名演奏です。
シューベルト 弦楽五重奏曲 ハ長調
ヴァイオリン:シャーンドル・ヴェーグ
シャーンドル・ツェルディ
ヴィオラ:ゲオルグ・ヤンツェル
チェロ:パブロ・カザルス
パウル・サボ
1961年 プラド音楽祭ライブ録音
AMAZON→ カザルス シューベルト弦楽五重奏曲
交響曲「グレート」を濃縮したような、魅力的な旋律の連続、そして迫力にも満ちた作品です。シューベルトがモーツァルト並みの天才だったと再認識しました。
録音もリアリティが高く、オンマイクで素晴らしい。
ベームやルービンシュタインに愛され、彼らの葬儀に使用された第2楽章。各楽器の音が漂い瞬いている。単なる伴奏のピチカートでも、カザルスが名器ゴリフラで奏でると意味深く響く。第3楽章の荒々しいスケルツォ、じっくり楽想を刻んでいながらも勢いが感じられる第4楽章。
スターンとの演奏も残されています。美しい第2楽章。
特に終曲部は曲も演奏も圧巻の出来で、室内楽の範疇を越えています。楽器構成にも依るのでしょうが、終始演奏をリードするカザルスとヴェーグのぶつかり合いが見事です。アンサンブルは完璧ではないですし、カザルスの技巧も衰えていますが、ライブながらの駆け引きと緊張感が約1時間の大曲を貫いています。まるで交響曲を聴いたような気持ちになります。
この曲は長調で作曲されていて、魅力的な旋律に溢れていますが、不思議と短調のように聞こえ「諦念」を感じさせられる。生への諦めがつき天国を夢想しながらも、心の奥底で地面に這いつくばり「まだ生きたい」ともいう気持ちが消えない。
この演奏にはカザルスのまだまだ生きる気持ちの強さが込められている。その力強さが抑え込む諦念の反動を生んで、なんともいえない無常感を伴う感動を与えてくれます。
カザルスのスピーチ姿の動画。伝えたいものがたくさんあるのが言葉はわからなくても伝わってきます。「
peace、peace、peace・・・・」、鳥の歌。
シューベルトの悲しみを伴った美しさもいいですが、晩年のしっかりとした構成力と必死に何かに抗う力強さを教えてくれる一枚です。どこかが復活させて欲しいCDです。



