昔からフルトヴェングラーの第9と比肩されていたトスカニーニの第9です。ところが、第9の名盤という列にはあまり加わらない名盤です。「楽譜に忠実」と謳われたトスカニーニで、楽譜ではメトロノーム指定が信憑性が低いと言われていたこの時代にもテンポ指定は楽譜に近い。しかし、この第9でも最後の最後に楽譜に忠実でないことを指摘した評論家はいたでしょうか?
トスカニーニは全般的に早いイメージでしょうが、この第9では今の古楽器演奏を彷彿させるテンポ感と熱量・信念が加わって力強い。

正統的なブロムシュテットの第9も好きですが、最近聴いてなかったなということでトスカニーニを手に取ってみたのですが・・・
「楽譜に忠実」と謳われていたこの巨匠が、こんな第9という名曲にも関わらずかなりスコアに手を入れていたことがわかり、正統的と思われた演奏が今となっては少し奇異に聴こえてしまうとは・・・ベーレンライター版に慣れたせいもあるのでしょうが、それだけでは無い。
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」
アイリーン・ファーレル(ソプラノ)
ナン・メリマン(メゾ・ソプラノ)
ジャン・ピアース(テノール)
ノーマン・スコット( バス)
ロバート・ショウ合唱団
指揮・アルトゥーロ・トスカニーニ
NBC交響楽団こちらは随分とお高くなってしまいましたね・・・
トスカニーニ大全集。
素晴らしい演奏だと認めます。ただ晩年の生硬さが少し強く出すぎている演奏かなと思います。リマスターが進むにつれてその辺が少し和らぎましたが。そして原典主義やベーレンライター版に慣れた耳には、楽譜の変更も随所で行われていることも明確に聴こえる。
第1楽章最初の第1主題の2回目の部分などにすでにティンパニ追加があるのがわかります。後半では弦楽器のキーをオクターブあげるなどの処理もされています。まぁこれは当時の慣例だった部分もありますが、それ以外のところでも細かくやっています。しかし力強い剛直で推進力のある信念に基づいた音作り。
1948年のライブで冒頭。聴こえづらいかもしれませんがすでにティンパニ追加が聴こえる。
第2楽章はワーグナーのホルン追加を思いっきり吹かすくらいで、小気味よいテンポで進みます。ただいつものトスカニーニに比べると斬れ味が少し足りないというのは贅沢でしょうか。斬れ味が少しそっけない。録音と会場(カーネギーホール)によるところもあるかもしれません。8Hスタジオだったらもっとダイレクトに伝わってきたことでしょう。
第3楽章も早めのテンポでフルトヴェングラーの耽美的な解釈を真っ向から否定し、現代の古楽器演奏のスタイルを先取りするかの様なすっきりスタイル。しかし丁寧に楽器バランスをコントロールしたり、うまく歌わせることに細心の注意が払われていて、根本にはイタリアの血が騒ぐカンタービレに溢れている。ただの楽譜と時代楽器に忠実という古楽器演奏とは一線を画すところです。
後半のトランペット警句も意外と弱く肩透かしを食います。がその後の弦の歌心は流石です。
第4楽章。早いスタートでもしっかり楽器が鳴りきっているところは名コンビ。この演奏で一番物足りないのは一番肝心なこの第4楽章かもしれません。テンポは若い頃のカラヤン並みに風を斬るように颯爽と進みます。それにアンサンブル崩れずついていくNBC響のアンサンブルは鉄壁。スコットのバスはまずまず、テノールのジャン・ピアース(ブリテンが好んだ同名ですが別人)はトスカニーニお気に入りのテノールですが、いつも一本調子の歌い方で明暗が無い。合唱団は少し歌わされている感が感じます。
ヴェルディ「諸国民の賛歌」。戦後のイメージを込められた編曲があります。
さて一番の問題は最後のコーダ、アッチェレランド。私が当初このLPを購入しようと思ったのは「きっとトスカニーニだからかなりの速さでかっ飛ばしていくだろう」と予想していたからです。ところが全くの逆で楽譜指示に従っているため遅い。これにはかなりがっくりした記憶が鮮明にあります。ただ最後の最後「タララタララ・タッ・タッ・タッ・タッ・タン」という急激なテンポアップでバッサリ切るところは迫力満点。フルトヴェングラーのハイテンポで「ダンッダンッダン」と曖昧に終わる感じと真逆。この最後の部分でこんなに鳴る演奏はないと記憶します。
それもそのはず、トスカニーニはここで楽器を追加しています。通常最後の「タララタララ」は木管楽器だけで演奏されるので早いテンポだとほとんど聴こえない。ここに明らかさまにトランペットとホルンを追加して重ねています。
この変更を行っているのは、私が知る限りトスカニーニとストコフスキーだけです。だから当時の慣例というわけではないと思います。だから勢い良く鳴る訳です。つい最近まで気にしていなかったせいか、気づきませんでした。
ストコフスキーの明らかに目立つ鳴らせ方を聴いてあれ?っと気づいた始末。
1938年のライブ録音では最後の「タッ・タッ・タッ・タッ・タン」にだけ追加しているように聴こえます。
第九はポケットスコアを持って聞くといろんな発見があって面白いです。少し分厚いですが。確かめてみると「あれ?えー」と思うことしばしば。昔の録音を聴くと特にそう思います。
一家に一冊。我が家の棚の中では芥川作品の横に並んでいます。かなり読み込まれています。
評論家の「トスカニーニは楽譜に忠実」という言葉・信仰は1980年半ばまで論争にもならなかったことには本当に驚き。当時は楽譜がそれほど流付されていなかったことも一因かもしれませんが、明らかに足してるぞという部分は結構多い。楽譜を見ながら音楽を聴くということの面白さと楽しさもたまには必要ですね。
【関連過去記事】
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ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」の名盤記事まとめ・
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」 フルトヴェングラーのCD聴き比べレビュー
posted by 悩めるクラヲタ人 at 21:06|
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ベートーヴェンの交響曲名盤
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